2020年 10月 24日
《 秋 深く 旅人は山道を往く Ⅲ 》
秋 晩くへ。
旅人は今日も歩く。
紅葉黄葉の木漏れ日が斑にマントにそそぐ。
野兎が杣道を横ぎり
啄木鳥の樹を穿つ音が山々に響く。
旅人は黙して峠を越えていく。
明治40年 実父の見舞いをかねての宮崎へむかふ旅の途中
早稲田の学友・有本芳水に 牧水は葉書を書く。
《君のすすめで、岡山に来て、駅前に一泊した。
翌日は草鞋脚絆に身を堅め、浴衣崖で、雑嚢を肩にし、
oooまでは汽車、それからは徒歩で高梁にて一泊。
それから阿哲峡に来て渓流を眺めた。
新見からは西に折れ、備中備後の国堺の二本松峠に来たが、
ここで日が暮れた。山寺がありその前に熊谷屋といふ
旅人宿があったので、ここに泊まることにした。
寝床に入ったが、寂しさが身に沁みて寝つかれない。
夜更けの山中はただ風に音と、谷川のせせらぎが聞こえるばかりである。
さびしさのあまり歌ができた。
(けふもまたこころの鉦をうち鳴らしうち鳴らしつつあくがれていく)
(幾山河越え去り行かばさびしさのはてなむ国ぞけふも旅ゆく)》
『けふもまたこころの鉦をうち鳴らし
うち鳴らしつつあくがれていく』
『幾山河越え去り行かばさびしさの
はてなむ国ぞけふも旅ゆく』