2018年 12月 20日
《 十二月 (詩人) がゐる ・・・ 萩原朔太郎 》
( 詩人は妻との離婚後、
ふたりの娘を連れ郷里の前橋に戻るも、
昭和四年の末、ふたたび単身上京し
ほんのひと月半をアパートで過ごす。)
(街)モ(在)モ(野)モ
(季節)トナリ
(詩人)モ亦
(十二月)ニゐル。
≪乃木坂倶楽部≫ 萩原朔太郎
「 十二月また来れり。
なんぞこの冬の寒きや。
去年はアパートの五階に住み
荒漠たる洋室の中
壁に寝台(べつと)を寄せてさびしく眠れり。
わが思惟するものは何ぞや
すでに人生の虚妄に疲れて
今も尚家畜の如くに飢えたるかな。
我れは何物をも喪失せず
また一切を失ひ尽せり。
いかなれば追はるる如く
歳暮の忙しき街を憂ひ迷ひて
昼もなほ酒場の椅子に酔はむとするぞ。
虚空を翔け行く鳥の如く
情緒もまた久しき過去に消え去るべし。
十二月また来れり
なんぞこの冬の寒きや。
訪ふものは扉(どあ)を叩(の)つくし
われの懶惰を見て憐れみ去れども
石炭もなく暖炉もなく
白亜の荒漠たる洋室の中
我れひとり寝台(べつと)に醒めて
白昼(ひる)もなほ熊の如くに眠れるなり。」